高台寺和久傳



先回の熊鍋(比良山荘での料理名は月鍋)に続き、昨冬の味覚の思い出をもうひとつ。

このところ熊にうつつをぬかしていましたが、冬の味覚の女王といえばやはり松葉蟹。
関西に育ったので、子供の頃は季節になると、城崎や山陰に蟹を食べに行くのが年中行事でした。

親元を離れ出不精になり、すっかりご無沙汰だったのですが、ある雑誌の蟹特集を見て
懐かしさとともに蟹が無性に食べたくなりました。

久しぶりに竹野の竹涛に行ってみようかと食友達数人に声をかけたのですが、皆の都合が合わず遠出は無理となったので、
高台寺和久傳での蟹コースとあいなりました。

個人的に高台寺の和久傳には伺ったことがなかったので、評判の蟹をいただく良い機会となりました。


底冷えの厳しい1月の京都、すっかり日も落ちた時間に高台寺和久傳に到着。

タクシーから玄関までのたった数歩が寒い!

温かく火鉢が焚かれた玄関に通されほっとします。

紅白の椿が、新年のめでたさを残しているかのよう。



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掘りごたつ式のカウンターになった個室に通されると、温かな空気に乗り焼蟹の香りが。
期待に胸が膨らみ、お腹は凹みます。

料理長からの一献をいただいてコースがスタート。
一献のお酒が美味しかったので、同じものを続けてお願いします。

まずは先付に北寄貝、鱈の白子、紅白の大根の酢の物が。



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出汁の利いた土佐酢はゆるいジュレ状になっていて、食材によく絡みます。
貝の旨味と歯応え、白子のクリーミーなコク、そして爽やかな紅白の大根のハーモニー。

口の中がさっぱりしたところで、先付がもう一品。焦らすかのように蟹以外の食材で。
京都の方は本当に「いけず」ですね(笑)



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拍子木切りした和牛に、甘い醤油ダレ(要は焼肉のタレの極上品な感じ)をかけています。
さっぱりさせた口に、和牛の甘い脂が回ります。
牛刺はとても美味しい、けど早く蟹も食べたい。意地汚い心は千々に乱されます(笑)

そしていよいよ、「お蟹さま」が登場です!



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意表を突いた蟹のにぎり寿司。お凌ぎの扱いでしょうか。
口の中で解れた蟹の身が、同じく解れたご飯粒と絶妙に混ざり合います。

続いて椀物。蓋を取ると、皆から喜びと溜め息が同時に漏れます。



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足の身にみそと外子を添えた、なんとも贅沢なお椀。
椀の中はそれぞれの異なる旨味と食感が鬩ぎ合うバトル・ロワイヤル状態です。

向付は、蟹に負けない旨味の河豚で。



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蟹の攻めの旨味とは異なる、抑制の利いた静かな旨味に引き込まれます。
例えるならチャイコフスキーの後に聞くバッハ。もしくはミケランジェロの後に見るフェルメール?

鉢魚として、いよいよメインイベントである焼蟹のターン!
まずは焼く前の蟹とご対面です。



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まずは足の部分から。



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水分が飛ぶことで、濃縮された蟹の風味と旨味に感動。
茹でや蒸しとはまた違う、蟹の美味しさが広がります。
焼き目の香ばしさがまた、良い仕事をしています。



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足の先端部は燗酒に入れて。
ひれ酒ならぬ、足酒? 爪先酒?
日本酒に香ばしさと旨味が移り、ここに塩を入れたら立派なスープになりそうです。

もう一度足と、身が詰まった肩の部分の焼きが。



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お約束通り、皆が静まり返ります。

味噌が入った甲羅も炭で炙り、ビスクのように濃厚なスープとして出されます。
「一口残したら、そこにお酒を入れ温めますよ」と料理長のお誘いがありましたが
あまりに美味しすぎて、その一口が残せません。
人目がなければ、いっそ甲羅を舐めたいくらいです(笑)
こういうとき、西洋料理はパンで拭えていいですね。

止め肴は蛤と独活や人参、百合根などの和え物。



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止め肴と順が入れ替わりますが、ここで強肴の頭芋の煮物が出されました。
おめでたい頭芋に貴重なばちこが添えられ、色や形のコントラストが抽象画のようです。



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きっと蟹の強い旨味を一度酢で洗い流し、出汁とばちこをきちんと味わって欲しいということで
あえて料理の順番を入れ替えたのでしょう。
立派な頭芋も、美味しいお出汁のおかげでするすると完食。
ばちこも良いアクセントで、残っていた日本酒が進みます。

食事は「蟹雑炊」か「玉子綴じ丼」かの希望を聞かれます。
初めての和久傳なので定番の雑炊も捨てがたかったのですが
雑誌などで見た事がない玉子綴じ丼への好奇心が勝りました。



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とろとろの卵に蟹足がごろごろ、美味し過ぎて一膳では足りません!

後髪を引かれながら料理は終了。
柑橘(品種名は失念)のゼリーと



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わらびもちでコースは終了です。



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ここでも柑橘の酸味で舌を洗い、繊細でまったりした品に続けています。


実は高台寺和久傳に伺うにあたり、「焼蟹ばかり出続けると飽きるのでは?」と思っていました。
焼くと美味しい分、蟹自体のクセやアクも強くなりますし。

しかし、他の料理とも組み合わせながら、会席のスタイルに落とし込み
コース仕立てにされた蟹料理の数々に感心させられた次第です。

生あり、茹であり、焼きあり、酒漬けあり。
飽きるどころか「まだまだ食べたい」と思わせるバリエーション。

間人蟹の新鮮さをできるだけ損なうことなく京都まで運びながら
蟹の美味しさだけに頼らすに、料理としての創意工夫も凝らされている。

間違っても安価な食事とは言えませんが、食材の質や設え・居心地だけでなく
料理1品1品とコース全体での完成度までが考え抜かれている。
料亭ならではの洗練されたお料理でした。

高台寺和久傳の素晴らしさに気づかされた、良い体験となりました。

和久傳の上品な蟹料理と、冬の日本海の荒波のなかでいただく竹涛の豪快な蟹三昧。
来年は、ダブルで蟹を堪能できますように 笑



by nonaetamu | 2017-05-07 15:58 | 日本 | Comments(0)